犬の汎骨炎について|若齢大型犬に多い成長期の骨疾患

砂浜にいる黒い犬

「急に前足を引きずるようになった」
「痛そうにしていたのに、数日後には別の足をかばっている」
「骨折や脱臼ではないかと心配」

こうしたご心配がある飼い主様もいらっしゃるかと思います。
若い大型犬が突然足を引きずり始めると、何か大きな問題があるのではないかと不安になりますよね。

ただ、実は手術を必要とせず、内科療法で改善する骨の疾患も存在します。

今回は、成長期の大型犬に多い「汎骨炎」について、原因や症状、診断、治療法を解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬の健康管理にお役立てください。

目次

犬の汎骨炎とは

犬の汎骨炎(はんこつえん)は、骨の内部にある骨髄に炎症が起こる疾患です。

主に中型犬から大型犬の成長期に発症し、生後5ヶ月から2歳頃までの若齢犬に多く見られます。
特にジャーマン・シェパード・ドッグでの発生率が高いことが知られていますが、その他の大型犬種でも発症例は報告されています。

性別による差も報告されており、メスよりもオスに発症するケースが多いとされています。発症率はオスが約80%を占めるというデータもあり、成長速度の速い大型犬のオスは特に注意が必要です。

汎骨炎は成長期特有の疾患であり、成犬になると自然に症状が消失することがほとんどです。
成長期の骨関節疾患の中では予後が最も良好な疾患のひとつといわれています。

汎骨炎の原因

汎骨炎の原因は、現時点では明確にわかっていません。

さまざまな要因の関与が疑われており、研究が続けられています。
現在考えられている要因には以下のようなものがあります。

  • 遺伝的要因(特にジャーマン・シェパードに多いことから)
  • 急激な成長に伴う骨への負担
  • 高タンパク質食や過剰なカルシウム摂取などの栄養性要因
  • 代謝異常や自己免疫の関与
  • ストレスや感染の影響

これらの要因が単独または複合的に作用して発症すると考えられています。
原因が特定されていないため確実な予防法も確立されていませんが、成長期に適切な栄養バランスを保つことが重要とされています。

汎骨炎の症状

汎骨炎の症状は、突然始まる跛行(はこう:足を引きずる歩き方)が特徴です。

外傷がないにもかかわらず急に足をかばうようになるため、骨折や脱臼を疑う飼い主様も少なくありません。
主な症状には以下のようなものがあります。

  • 突然の跛行(前肢に多いが後肢にも発生)
  • 痛みが足から足へ移動する(移動性跛行)
  • 患部を触ると強い痛みを示す
  • 食欲不振、元気消失、発熱、体重減少(重症例)

この疾患の大きな特徴は「移動性」です。
ある足の症状が改善したと思ったら、別の足に痛みが現れることがあります。

1本の足だけでなく、複数の足に同時に発症することもあり、飼い主様を困惑させるケースも見られます。
症状は数日から数週間続くことが多く、痛みの程度も軽度から重度までさまざまです。

痛がる足が日によって違うと、本当に痛いのか分かりにくく感じることもあるかもしれません。
こうした症状も汎骨炎のサインである可能性がありますので、気になる様子があれば気軽にご相談ください。

棒を齧っている犬

汎骨炎の診断

汎骨炎の診断は、触診とレントゲン検査を組み合わせて行われます。

触診

触診では、足の長い骨を深く押されると強い痛みを示すことが特徴的です。
具体的には以下の骨で検査が行われます。

  • 上腕骨:肩から肘にかけた太い骨
  • 橈骨:肘から手首までの比較的太い骨
  • 尺骨:橈骨の隣に並走するやや細い骨
  • 大腿骨:股関節から膝にかけた太い骨

こうした骨を押して痛みが見られた場合、汎骨炎が疑われる手がかりとなります。

レントゲン検査

レントゲン検査では、骨の内部にまだら状または虫食い状の白い影が写ることがあります。
病期が進むと、骨皮質(骨の外側の層)が厚くなる変化も確認されるようになります。

ただし、発症初期にはレントゲン検査で異常が現れないケースも少なくありません。
症状があるにもかかわらず画像上の変化が見られない場合は、時間をおいて再検査が検討されます。

骨折や脱臼、関節炎など他の整形外科疾患と症状が似ているため、正確な診断には専門的な知識と検査が必要です。
ご自宅で愛犬の足を触ったときに痛がる様子があれば、早めの受診をおすすめします。

汎骨炎の治療

汎骨炎の治療は、内科療法が中心となります。
骨折や脱臼のような外傷性疾患とは異なり、外科手術は基本的に必要ありません。
痛みや炎症を抑える対症療法が行われ、成長とともに自然治癒を待つ形となります。

具体的な治療法には以下のようなものがあります。

  • 消炎鎮痛剤の使用による痛みと炎症の軽減
  • 症状が重い場合の運動制限
  • 適切な体重管理

運動制限や安静は回復を早める効果はありませんが、痛みを軽減する効果は期待できます。
成長期の犬に過度な体重制限を行うと他の問題につながる可能性があるため、獣医師の指導のもとで適切に管理することが大切です。

汎骨炎は成長期を過ぎると症状が消失し、多くの場合1〜2年以内に完治します。
再発を繰り返すこともありますが、成長が完了すれば症状は見られなくなります。

「いつ治るのか」とご不安になる飼い主様も多いですが、成長期を過ぎれば落ち着くケースがほとんどです。
焦らず経過を見守りましょう。

後ろを振り返っている犬

まとめ

今回は、若齢大型犬に多い汎骨炎について解説しました。

愛犬が急に足をかばい始めると心配になりますが、汎骨炎のように内科療法で改善が見込める疾患もあります。
大切なのは、外科的な疾患との正確な鑑別診断を受けることです。

RASKでは整形外科疾患の診断・治療に力を入れており、提携動物病院と連携して適切な治療をご提供しています。
愛犬の歩き方に異変を感じたら、是非お気軽にお近くの提携病院へご相談ください。

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この記事を書いた人

獣医師、合同会社RASK代表、京都動物医療センター整形外科科⻑
資格:テネシー大学公式認定 CCRP
全国の犬猫の出張外科医として活動中