犬の下顎骨骨折|治療のポイントや外科手術について獣医師向けに解説

大きなあくびをするチワワ

犬の下顎骨骨折は交通事故や落下などの外傷だけでなく、重度歯周病に伴う病的骨折として遭遇することもあります。
下顎骨は歯根や下顎管などの重要な構造が密集しており、治療では骨癒合だけでなく正常咬合の回復と口腔機能の維持が重要です。

今回は犬の下顎骨骨折について

  • 原因
  • 診断
  • 治療法
  • 術後管理

などを獣医師向けに解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、犬の下顎骨骨折の治療の参考にしていただければ幸いです。

目次

犬の下顎骨骨折とは

犬の下顎骨骨折は下顎体部や下顎結合部などに生じます。
特に下顎体部では歯根が骨内の大きな範囲を占めるため、骨折の固定時に歯根や下顎管を損傷しないよう注意が必要です。

犬の下顎骨骨折の治療の目的は

  • 骨折部の安定化
  • 正常咬合の回復
  • 歯牙・歯周組織の温存
  • 採食機能の早期回復

です。

犬の下顎骨骨折の原因

主な原因には

  • 交通事故
  • 高所からの落下
  • 咬傷
  • 重度歯周病
  • 腫瘍

などがあります。
若齢犬では外傷性骨折が中心ですが、高齢犬では歯周病による骨吸収が進行しわずかな力が加わったタイミングで骨折することも多いです。

犬の下顎骨骨折の症状

下顎骨骨折では

  • 食事ができない
  • 口を閉じられない
  • 口からの出血がある
  • 下顎が歪んでいる

などの症状がみられます。
特に下顎体部の骨折では顎のラインが大きく歪むことが多いです。

喧嘩をする2頭のゴールデンレトリバー

犬の下顎骨骨折の診断

犬の下顎骨骨折の診断のためには

  • 口腔内検査
  • 歯科用X線検査
  • 頭部X線検査
  • CT検査

などを行います。

歯科用X線では

  • 骨折線と歯根との位置関係
  • 歯周病の程度

などを評価できます。
複雑骨折や顎関節周囲の骨折では、CT検査が手術計画に有用です。
CT検査では、より詳細な骨折線の走行や骨片のずれを把握することができます。

外傷症例では、骨折の検査より全身状態の安定化を優先します。
交通事故などでは胸部外傷や腹腔内出血を併発している可能性があるためです。

犬の下顎骨骨折の治療

犬の下顎骨骨折の治療法には

  • 保存療法
  • インターデンタルワイヤー
  • レジンスプリント
  • 骨間ワイヤー
  • プレート・スクリュー固定
  • 創外固定

などがあります。
治療法は

  • 骨折部位
  • 骨片の変位
  • 残存歯
  • 骨量
  • 歯周病の程度

などに応じて選択します。

保存療法

骨折のずれが少なく咬合が保たれている安定型の骨折では、テープマズルなどによる保存療法が選択されることがあります。
ただし固定力は限定的で、適応症例は限られます。

インターデンタルワイヤー・レジンスプリント

歯牙を固定源としてワイヤーやレジンを使用する方法です。
歯根や下顎管への侵襲を抑えながら、咬合を維持して固定できる点がメリットです。
特に下顎体部骨折では有用で、重度歯周病を伴う症例でも適応できる場合があります。

骨間ワイヤー

骨片に穴をあけてワイヤーで固定する方法です。
比較的簡便ですが回旋方向の安定性が不十分になることがあり、他の固定法と併用する場合もあります。

プレート・スクリュー固定

骨折部を直接プレートとスクリューで固定します。
強固な固定が得られる一方、歯根や下顎管を損傷するリスクがあります。
術前の画像をもとに、スクリューの長さや刺入方向を慎重に計画することが重要です。

創外固定

十分な骨量がある場合は創外固定が適応になる場合があります。
創外固定は骨折部にピンを刺入し、皮膚の外側でフレームを組んで固定する方法です。
骨折部を大きく開かずに固定できるため、軟部組織への侵襲を抑えられる利点があります。
ピン周囲の感染や固定装置の管理が必要になるため、症例に応じた適応判断と術後管理が重要です。

骨折線上の歯は抜歯すべき?

骨折線上に歯が存在していても、必ず抜歯する必要はありません。
歯周組織が健全で、歯根損傷や感染がなければ温存できることがあります。

しかし

  • 重度歯周病
  • 歯根の破折
  • 歯の著しい動揺
  • 歯髄壊死
  • 整復を妨げる歯

では抜歯を検討します。
感染した歯や不安定な歯を残すと骨折部の感染や癒合不全の原因になるためです。
歯が骨片の正しい整復や固定を妨げる場合には、正常な咬合と安定した骨癒合を得るために抜歯が必要です。

食事をする大型犬

犬の下顎骨骨折の術後管理

術後は

  • 鎮痛管理
  • 食事内容の管理
  • 口腔内の衛生管理
  • 固定装置の確認
  • 咬合評価

などを行います。

術後の痛みは食欲低下や治癒の遅延に繋がるため、疼痛管理は重要です。
骨癒合が得られるまでは柔らかい食事を与え、硬いフードやおもちゃは避けます。
口腔内固定ではワイヤーやレジン周囲に歯垢や食渣が付着しやすいため、口腔ケアも重要です。
咬合のずれは慢性的な痛みや摂食障害の原因になるため、咬合評価は丁寧に行う必要があります。

まとめ

犬の下顎骨骨折は適切な治療と術後管理を行うことができれば良好な予後が期待できます。一方で、下顎骨骨折の治療は整形外科の専門知識と技術が求められる高度なものです。

RASKでは全国の動物病院で整形外科の外科出張サービスを提供しています。
院内での対応が難しい下顎骨骨折や手術が必要な整形外科症例についてお困りの際はご相談ください。

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この記事を書いた人

獣医師、合同会社RASK代表、京都動物医療センター整形外科科⻑
資格:テネシー大学公式認定 CCRP
全国の犬猫の出張外科医として活動中