犬の腹腔鏡下避妊手術における卵巣摘出|獣医師が知っておくべきメリットを解説

ドッグランを走っている白いトイプードル

近年、獣医療の分野において低侵襲手術への需要が高まっています。
特に避妊手術は日常診療で頻繁に行われる外科処置の一つであり、飼い主様からはより安全で回復の早い方法を求める声が増加しています。
腹腔鏡下避妊手術による卵巣摘出は、まさにこうしたニーズに応える術式です。

本コラムでは、腹腔鏡下避妊手術における卵巣摘出の基本から、獣医師の皆様が臨床現場で活用できる実践的な知識を詳しく解説します。
獣医師の皆様はぜひ最後までお読みいただき、腹腔鏡下避妊手術を行う際の参考にしてみてください。

目次

犬の腹腔鏡下避妊手術と卵巣摘出の基本

リードを見ている白黒のチワワ

腹腔鏡下避妊手術は、小さな切開創から内視鏡カメラと専用器具を挿入し、モニター画面を見ながら行う低侵襲手術です。
その中でも卵巣摘出は卵巣のみを切除し、子宮は温存する術式として確立されています。
犬の発情は卵巣からのホルモン分泌に依存しています。
そのため、避妊目的としては卵巣摘出のみで十分であり、健康な若齢犬においては子宮を摘出する必要性は高くありません。

ただし、子宮に病変が疑われる場合や、飼い主様の希望により子宮も摘出する場合は腹腔鏡補助下での卵巣子宮摘出術も選択肢となります。

開腹手術と比較した犬の腹腔鏡下避妊手術のメリット

腹腔鏡下避妊手術による卵巣摘出は、従来の開腹手術と比較して多くのメリットがあります。
ここでは具体的な腹腔鏡下避妊手術のメリットをご紹介します。

侵襲が小さい

腹腔鏡下避妊手術の最大のメリットは切開創が小さい点です。
多くの場合は2〜3箇所程度の1cmほどの傷で済みます。
腹壁の損傷も最小限となるため、術後疼痛は明らかに軽減されます。

回復が早い

腹腔鏡下避妊手術は傷が少ないため、一般的に開腹避妊術よりも入院期間が短く、早期の退院が可能です。
多くの場合、術翌日または当日の退院も珍しくありません。
特に飼い主様にとっては、生活や看護の負担が減る点でも大きな利点です。

合併症リスクが低い

手術に伴う合併症の発生率も腹腔鏡下避妊手術の方が低いとされています。

腹腔鏡下避妊手術は術創が小さく、術中術後の感染や創部トラブルのリスクが低減します。
例えば、中型や大型犬の手術後の創部腫脹や感染の発生もまれです。

術野の視認性が上がる

腹腔鏡手術ではカメラを用いることで拡大視野で血管や周辺組織を明瞭に観察することが可能です。
モニターで卵巣動静脈や子宮広間膜の走行を詳細に確認しながら処理できるため、出血リスクを最小限に抑えられます。
また、気腹により腹腔内にワーキングスペースが確保されるため、臓器損傷のリスクも低減します。

腹腔鏡下避妊手術における卵巣摘出の合併症と対策

腔鏡下避妊手術における卵巣摘出は低侵襲で安全性の高い術式ですが、リスクがないわけではありません。
もっとも注意すべき合併症は卵巣動静脈からの出血です。
腹腔鏡下では視野が拡大されますが、止血不十分のまま血管を切離すると術中あるいは術後出血につながる可能性があります。
卵巣動静脈を切断する際は無理な牽引を避け、血管走行を十分に確認した上で処理を行う必要があります。
出血のリスクを減らすにはエネルギーデバイスや血管シーリングシステムを用い、確実な凝固・切離を段階的に行うことが有効です。

次に、気腹に伴う循環・呼吸への影響が挙げられます。
特に小型犬や若齢犬では、過度な気腹圧により循環血液量の低下や換気障害を招くリスクがあります。
術中は血圧、呼吸状態を継続的にモニタリングし、麻酔管理を徹底することが大切です。

腹腔鏡下避妊手術導入時の課題

腹腔鏡下避妊手術は低侵襲で高い付加価値を持つ一方、導入にあたってはいくつかの現実的な課題が存在します。
中でも最大の障壁となるのが、術者およびスタッフの技術習得です。
腹腔鏡手術は、開腹手術とは異なる視野認識や器具操作を必要とし、技術の習熟には一定のトレーニング期間を要します。
症例数が限られる施設では、十分な経験を積む機会を確保しにくい点も課題となります。

こうした技術的ハードルを解決する手段の一つが、出張外科サービスの活用です。
経験豊富な外科医が施設に赴き、実際の症例を通じて手術を実施することで、動物病院側は高度な術式を安全に提供できます。
また、院内スタッフが手術に立ち会うことで、腹腔鏡手術を実地で学ぶことができ、将来的な自院導入への橋渡しとなります。
出張外科は単なる外部委託ではなく、腹腔鏡下避妊手術を段階的に導入するための現実的かつ有効な解決策です。

まとめ

犬の腹腔鏡下避妊手術における卵巣摘出は、低侵襲かつ高い飼い主満足度を兼ね備えた術式です。
一方で、設備や技術の問題から導入をためらう動物病院が多いのも現実です。
出張外科という選択肢を活用することで、病院の負担を抑えながら腹腔鏡下避妊手術を提供することが可能になります。

RASKでは全国の動物病院で腹腔鏡手術を実施しています。
腹腔鏡下避妊手術などの腹腔鏡外科に興味のある獣医師の方は気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

獣医師、合同会社RASK代表、京都動物医療センター整形外科科⻑
資格:テネシー大学公式認定 CCRP
全国の犬猫の出張外科医として活動中