犬の腹腔鏡下肝臓生検とは?|安全で正確な検査方法を獣医師が解説
「健康診断で肝臓の数値が高いと言われた」
「肝臓の超音波検査でははっきりわからないと言われた」
そんな経験をされた飼い主様も多いのではないでしょうか。
犬の肝臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、異常があっても初期には症状が出にくいのが特徴です。
そのため、正確な診断を行うためには肝臓の一部を採取して顕微鏡で詳しく調べる「肝臓生検」が必要になることがあります。
近年では、従来の開腹手術よりも体への負担が少ない腹腔鏡を用いた肝臓生検が行われるようになっています。
今回は腹腔鏡を用いた肝臓生検について、手術の流れやメリット・注意点をわかりやすく解説します。
ぜひ最後まで読んでいただき、愛犬の肝臓に異常があったときに役立てていただければ幸いです。

犬の肝臓生検について
犬の肝臓生検とは、肝臓の一部を採取して肝臓の状態を顕微鏡で確認する検査方法です。
血液検査で犬に肝酵素の上昇がみられた場合に肝臓生検は行われます。
肝酵素とはいわゆる肝臓の数値のことですね。
犬の肝臓生検は肝酵素上昇の原因が
- 肝炎などの炎症性疾患なのか
- 脂肪肝や線維化などの代謝性疾患なのか
- 腫瘍なのか
を区別するために行われます。
超音波検査やCTでもある程度の肝臓の情報は得られますが、病気を確定診断するためには実際の組織を顕微鏡で見ることが必要です。
そのため、慢性肝炎や肝腫瘍の疑いがある場合に、肝臓生検が行われます。
犬の肝臓生検を行うケース
肝臓は再生能力が高く、多少のダメージでは症状が出にくい臓器です。
そのため、犬に症状が出てからでは治療が手遅れになってしまうこともあります。
犬に症状がなくても、肝臓に異常が見られた場合は早期診断・治療方針の決定が重要です。
特に以下のようなケースでは、犬の肝臓生検が推奨されます。
- 血液検査で長期間肝酵素の上昇が続いている
- 超音波検査で肝臓の形や色調に異常が見られる
- 腫瘍の可能性がある
- 肝臓の線維化や炎症の程度を詳しく確認する
肝臓の病気は原因によって治療法が大きく異なるため、正確な診断がその後の治療の鍵となります。

腹腔鏡下肝臓生検の特徴
腹腔鏡下での肝臓生検は、犬のお腹を大きく切らずに内視鏡カメラを使って肝臓の組織を採取する方法です。
犬のお腹に直径5〜10mmの小さな穴を3か所開け、その穴にカメラと専用の鉗子を挿入して行います。
腹腔鏡を用いた肝臓生検は、従来の開腹手術と比べて以下のような利点があります。
- 傷口が小さく、痛みが軽い
- 出血が少ない
- 回復が早く、入院期間が短い
- カメラで肝臓全体を拡大観察できるため精度が高い
肝臓全体を直接見ながら病変部を選んで採取できるのは、腹腔鏡ならではの大きなメリットです。
非常に小さな小型犬や重度の呼吸・循環器疾患を持つ犬では、腹腔鏡が適さない場合もあります。
犬の腹腔鏡下肝臓生検の流れ
犬の腹腔鏡下肝臓生検の手術は全身麻酔下で行われます。
手術の一般的な流れは以下の通りです。
それぞれについて解説します。
全身麻酔の導入
犬に麻酔をかけて眠らせます。
犬が痛みを感じないようにする重要な処置です。
腹腔内へのアプローチ
犬のお腹にポートと呼ばれる小さな穴を3か所開けます。
このポートから犬の腹腔内に二酸化炭素を入れ、お腹を膨らませます。
犬のお腹を膨らませてスペースを作り、腹腔内での操作を可能にする処置です。
カメラの挿入と観察
ポートからカメラを挿入し、モニター上で肝臓の表面や形を拡大して確認します。
犬の肝臓の色や形などの外観を詳細に確認できるのは、腹腔鏡ならではの大きなメリットです。
組織の採取
事前の超音波検査・CT検査の結果と肝臓の外観から採取する肝臓の部位を決定します。
専用の鉗子で犬の肝臓組織を数か所採取します。
肝臓組織の採取は肝臓病の診断に関わる重要なステップです。
止血・閉腹
肝臓からの出血がないことを確認します。
最後にポート部を縫合し、犬を麻酔から覚まします。

手術後の経過と注意点
手術後の犬は、麻酔からの回復を確認しながら点滴や鎮痛管理が行われます。
犬の状態や麻酔からの回復に問題がなければ手術当日〜翌日に退院可能です。
ただし、退院後も以下の点に注意が必要です。
- 元気や食欲の低下がないか
- 傷口を舐めたり、腫れていないか
- 嘔吐や下痢、発熱がないか
生検で採取した組織は病理検査に提出され、結果が出るまで1〜2週間ほどかかります。
病理検査により炎症や腫瘍などの肝臓の病態が明らかになり、その結果を元に犬の治療方針が立てられます。
飼い主様ができる術前・術後のケア
腹腔鏡下での肝臓生検は痛みの少ない手術ですが、飼い主様の術前・術後のケアも重要になります。
愛犬の回復を少しでも早めるために以下のケアを行いましょう。
それぞれについて解説します。
絶食・絶水
犬の胃の中に食べ物が残った状態で麻酔をかけると、食べ物が逆流する誤嚥のリスクになります。
手術前は獣医師の指示に従って絶食・絶水時間を守ることが大切です。
安静
手術後の犬は自宅での安静を心がけ、数日間は激しい運動を控えましょう。
エリザベスカラーや服を着用して、犬が傷口を舐めないようにすることも大切です。
体調管理
肝臓生検の検査結果が出たら、病気のタイプに応じて犬に食事療法や薬の投与が行われます。
飼い主様が毎日の食欲や元気をよく観察し、変化を記録することが、治療を成功させる大きな助けになります。

まとめ
犬の肝臓生検は、肝臓病の正確な診断に欠かせない検査です。
腹腔鏡を用いた犬の肝臓生検は、従来の開腹手術に比べて体への負担が少なく、回復が早いのが大きな特徴です。
肝臓の異常は見た目では分かりにくく、早期発見が難しい病気です。
健康診断で肝臓に異常が見つかった場合や肝臓に関連した症状がある場合は、早めに動物病院で肝臓生検のような詳しい検査を受けることが大切ですね。
RASKでは、内視鏡や腹腔鏡を用いた低侵襲手術に精通した獣医師が、全国の提携動物病院で高度な医療を提供しています。
犬の肝臓病の診断や治療でお悩みの飼い主様は、ぜひ一度ご相談ください。