犬の整形外科の疼痛管理|手術の痛みを抑えるための鎮痛戦略を獣医師が解説!

体が痛そうに暗い表情で、あごを前足に乗せて伏せているゴールデンレトリーバーの写真

犬の整形外科の疼痛管理|手術の痛みを抑えるための鎮痛戦略を獣医師が解説!

犬の整形外科手術では、術中と術後に強い痛みが生じます。
安全な麻酔や術後の早期の回復のためには、出来るだけ痛みを抑えることが大切です。
今回は犬の整形外科手術の疼痛管理について、獣医師がわかりやすく解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、犬の整形外科手術の疼痛管理に役立ててください。

目次

犬の整形外科手術の痛み

犬の整形外科手術の痛みは、組織侵襲による損傷と炎症によって生じます。
適切に術中と術後の痛みをコントロールすることには以下のメリットがあります。

  • 麻酔が安定する
  • 術後の回復が早い

それぞれについて見ていきましょう。

麻酔が安定する

適切に疼痛管理をすることは麻酔の安定につながります。
とくに犬の整形外科の痛みは強く、鎮痛が十分でないと心拍や呼吸が不安定になります。
不十分な鎮痛を補うために吸入麻酔薬を使いすぎると、術後の覚醒が遅くなったり、腎臓に負担がかかったりします。
このため術中の痛みを上手にコントロールして麻酔を安定させることは非常に重要です。

術後の回復が早い

適切に疼痛管理をすることは手術後の犬の回復を早めます。
術後の痛みが少ないと犬の元気・食欲の回復が早く、十分な睡眠がとれるため手術した部分の回復も早いです。

ただ疼痛管理が十分でほとんど痛みがない場合、犬が術後に動き過ぎることがあります。
その場合はケージレストなどの運動制限を行うことで患肢を保護することが重要です。

犬の整形外科手術に使う鎮痛薬

犬の整形外科手術に使う鎮痛薬には以下のような種類があります。

  • NSAIDs
  • α2作動薬
  • 非麻薬性オピオイド
  • 麻薬性オピオイド

それぞれについて解説します。

NSAIDs

NSAIDsは非ステロイド性抗炎症薬であり、犬の疼痛の抑制に有効です。
投与してから効果が出るのに1時間ほどかかるため、術前から投与します。
術後も継続して投与することで、術後の疼痛も抑えることができます。
ただ腎臓に副作用が出るため、腎機能の十分でない犬に使うのは避けた方がよいでしょう。

α2作動薬

α2作動薬は強力な鎮静作用に加え、鎮痛効果もあわせ持つ薬剤です。
メデトミジンがよく用いられ、術中に5〜10 μg/kgほどのごく少量を静脈注射することで短時間の鎮痛作用が得られます。
α2作動薬の投与時は心拍数が下がるため、循環動態に注意することが大切です。

非麻薬性オピオイド

非麻薬性オピオイドは術中・術後を問わず用いられる鎮痛薬です。
ここでは2種類の非麻薬性オピオイドについて解説します。

ブトルファノール

ブトルファノールはμ受容体拮抗作用とκ受容体作動作用をもつ薬剤です。
軽度〜中等度の鎮痛作用があり、効果持続時間は1時間程度と短いです。
またブトルファノールには鎮静作用もあるため、術前に投与するのに適しています。

ブプレノルフィン

ブプレノルフィンはμ受容体部分作動薬で、作用は長時間持続します。
鎮静作用は軽度であり、術後の入院管理中に継続的に使用するのに適しています。
ブプレノルフィンを投与すると、他のオピオイドの作用が減弱するため注意が必要です。

麻薬性オピオイド

麻薬性オピオイドは強力な鎮痛作用を持つオピオイドです。
整形外科手術にもよく用いられますが、使用には麻薬使用に関する免許が必要です。
麻薬性オピオイドには以下のような種類があります。

モルヒネ

モルヒネは強力なμ作動薬であり、痛みの強い手術でよく用いられます。
犬では1〜4時間ほど鎮痛が持続し、術後も痛みに合わせて追加投与が可能です。
モルヒネは鎮静作用が強いため、麻酔の覚醒遅延が起きることがあります。

フェンタニル

フェンタニルは強力なμ作動薬であり、痛みの強い手術でよく用いられます。
フェンタニルは術中や術後に持続点滴で使用しますが、退院後はフェンタニルパッチという貼付薬に切り替えることも可能です。
強力な鎮痛剤ですが、鎮静作用が強いため術後の覚醒が遅くなることが欠点です。

注射液のバイアルから注射器を用いて薬液を吸引している人の手の写真

鎮痛戦略としての組み合わせ

犬の整形外科手術の鎮痛戦略は、鎮痛薬や局所麻酔をうまく組み合わせることが大切です。
鎮痛薬の組み合わせの例をいくつか紹介します。

NSAIDs+ブトルファノール+メデトミジン

NSAIDs+ブトルファノール+メデトミジンは麻薬免許を必要としない組み合わせです。
術前にNSAIDsとブトルファノールを投与することで先取り鎮痛を行います。
また術中はメデトミジンの静脈注射を適宜行うことで強い痛みを抑えます。

NSAIDs+麻薬性オピオイド

NSAIDs+麻薬性オピオイドは非常に強力な鎮痛薬の組み合わせです。
犬の整形外科手術の強い痛みも十分に抑えることができます。
ただ麻薬の取り扱いに関する免許が必要であるため、すべての動物病院で利用できる組み合わせではありません。

これらの鎮痛薬に加えて、局所麻酔を行うと更なる鎮痛を得ることができます。

犬の整形外科疾患に行う局所麻酔

犬の整形外科疾患において局所麻酔は非常に有効な鎮痛手段です。
局所麻酔では神経伝達を直接遮断するため、脳脊髄に痛みが伝わらずに済みます。
整形外科で良く用いられる局所麻酔は以下の方法です。

  • 腰仙椎硬膜外麻酔:後肢・骨盤の手術
  • 坐骨神経ブロック:膝や下腿部の手術
  • 腕神経叢ブロック:前肢の手術

それぞれの方法を成功させるためには技術的に習熟する必要があります。
経験のある獣医師の指導を仰いだり、講習会に出席したりして技術を習得するとよいでしょう。

まとめ

犬の整形外科手術では術中・術後に強い疼痛が発生します。
術後の速やかな回復のためには、十分な疼痛管理が重要です。
疼痛管理の中心はNSAIDsやオピオイドなどの鎮痛薬であり、局所麻酔薬を組み合わせることでより安全かつ効果的な疼痛管理が可能です。

RASKでは全国の提携動物病院で整形外科手術の出張サービスを行っています。
疼痛管理についてのアドバイスも行っているため、興味のある獣医師の方はお気軽にご相談ください。

ボールをくわえながら原っぱを楽しそうに走っているヨークシャー・テリアの写真
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この記事を書いた人

獣医師、合同会社RASK代表、京都動物医療センター整形外科科⻑
資格:テネシー大学公式認定 CCRP
全国の犬猫の出張外科医として活動中