猫の変形性関節症を見逃さない|猫の変形性関節症の診断のポイントを獣医師が解説!

黄色い首飾りをしたかわいいマンチカンがこちらを鋭い目でにらんでいる写真

猫の変形性関節症を見逃さない|猫の変形性関節症の診断のポイントを獣医師が解説!

猫の変形性関節症は猫で一般的な整形外科疾患のひとつです。
「最近愛猫がジャンプをためらうけど、年のせいですよね」
飼い主からこのようなお話を聞く機会は少なくないでしょう。
猫は痛みを隠す習性があるため、変形性関節症を見逃してしまうことも少なくありません。
今回は猫の変形性関節症の診断のポイントや治療方針についてわかりやすく解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、猫の変形性関節症の診療の参考にしてみてください。

目次

猫の変形性関節症とは?

猫の変形性関節症は関節に慢性的な炎症と痛みを起こす病気です。
この病気の進行はゆるやかですが、長期にわたる痛みにより猫の生活の質を低下させます。
ある報告では、9歳以上の猫の70〜90%で変形性関節症のX線所見が見られました。

変形性関節症は、関節に以下のような変化が起こって発生します。

  1. 加齢により軟骨にひび割れや摩耗が起こる
  2. 軟骨が摩耗して、下の骨が露出する
  3. 露出した骨が摩擦により変形する
  4. 変形した骨が関節内に炎症と疼痛を起こす

この変化はゆっくりと進むため激しい症状を示さず、飼い主が気づかないことも多いです。

また猫の変形性関節症は特発性が多いですが、二次性の場合もあります。
二次性変形性関節症の原因は以下が挙げられます。

  • 股関節形成不全
  • 関節内骨折
  • 靭帯損傷
  • 脱臼
  • 椎間板疾患

これらの疾患の既往がある猫は、高齢になってからの変形性関節症に注意が必要ですね。

猫の変形性関節症の診断

猫の変形性関節症の診断は、症状がわかりにくいため容易ではありません。
猫の変形性関節症の診断には以下の検査が重要です。

  • 問診
  • 触診
  • 歩様検査
  • レントゲン検査

それぞれについて見ていきましょう。

問診

問診は猫の変形性関節症の診断においてとても重要です。
猫の変形性関節症の早期発見には飼い主様の観察情報が欠かせません。
特に以下の臨床徴候が出ていないかよく聞き取りましょう。

  • ジャンプ力の低下
  • 階段の回避
  • 遊びへの関心低下
  • 活動性の低下
  • 毛づくろいの減少
  • 歩様の異常
  • 不適切な排泄
  • 爪研ぎの減少

これらの臨床徴候が複数出ている場合は、変形性関節症の疑いが強くなります。

触診

触診は猫の変形性関節症の診断に役立つことがあります。
触診により関節の可動域の制限や捻髪音がわかる場合もあります。
ただ猫は痛みを隠すため、疼痛反応が明確に出ないことも多いです。
また猫は痛みがなくても、触ると嫌がったり攻撃行動をとったりしますね。
このため触診だけで猫の変形性関節症を診断することは難しく、総合的な判断が必要です。

歩様検査

歩様検査は猫の変形性関節症の診断において役立つことがあります。
ただ病院では猫が歩かないことも多く、診察時の歩様の評価は困難です。
このため自宅での動画を飼い主に記録してもらうと診断の助けになります。
動画によって体のどこに痛みがあるのかを推測でき、レントゲン検査に役立ちます。

レントゲン検査

レントゲン検査は猫の変形性関節症の診断の基本です。
触診や歩様検査により体のどこが痛いのか見当がついた場合はその部分を撮影しましょう。
ただ猫の変形性関節症ではどこの関節に異常があるかわからない場合も少なくありません。
このためよく発症しやすい体の部位に的をしぼってレントゲンを撮影することも有効です。
以下の体の部位は猫の変形性関節症を発症しやすいです。

  • 肘関節
  • 股関節
  • 膝関節
  • 腰仙部

またレントゲン検査で猫の変形性関節症を疑う所見は以下の4つが挙げられます。

  • 骨棘形成
  • 軟骨下骨硬化
  • 関節周囲の骨増生
  • 関節内・関節周囲の石灰化

ただ無症状でも異常所見が得られることもあり、画像所見と疼痛は必ずしも一致しません。
レントゲンだけで判断せず、臨床徴候も含めて判断することが大切です。

痛そうに腕を気にして沈鬱の表情を浮かべるキジトラの猫の写真

猫の変形性関節症の治療

猫の変形性関節症の治療は疼痛の緩和と生活の質の改善を目的に行います。
一度変形した関節の完治は望めないため、長期的な管理が求められます。
猫の変形性関節症の治療は以下の4つを組み合わせて行うことが大切です。

  • 鎮痛剤
  • 体重管理
  • 生活環境の改善
  • 食事療法

鎮痛剤

鎮痛剤は猫の変形性関節症の痛みをとるために有効です。
鎮痛剤はNSAIDsが第一選択ですが、長期使用で腎障害を起こすリスクがあります。
また近年は分子標的であるフルネベトマブも鎮痛剤としてよく使用されていますね。
フルネベトマブは皮下注射で投与する薬であり、単回投与で数週間の鎮痛効果があります。
腎毒性などの副作用も少なく、高価である点を除けばとても使いやすい薬です。

体重管理

体重管理は猫の変形性関節症の治療のうえで大切です。
じつは猫では体重と変形性関節症の明確な関係を示すエビデンスが得られていません。
それでも体重を適正に保つことは関節負荷を減らす可能性があり、疼痛改善に役立つ可能性があります。

生活環境の改善

生活環境の改善は猫の変形性関節症のケアに有効です。
たとえば以下のような工夫により猫の関節の痛みを減らすことができます。

  • 階段などの段差を減らす
  • トイレを入りやすい高さにする
  • 滑りにくい床にする

高齢の猫の飼い主様にはこのような飼育環境の見直しをお勧めするとよいでしょう。

食事療法

食事療法は猫の変形性関節症の疼痛緩和に有効です。
オメガ3脂肪酸であるEPAやDHAは関節の炎症を和らげ、痛みを緩和する効果があります。
EPAやDHAの摂取にはフードやサプリメントを利用するとよいでしょう。

まとめ

猫の変形性関節症は高齢個体で高頻度にみられる整形外科疾患です。
症状は跛行よりも生活習慣の変化として現れ、飼い主からの情報が診断の鍵を握ります。
診断では問診・身体検査・画像検査を組み合わせ、総合的に判断する必要があります。
また治療は鎮痛剤だけでなく、環境や食事なども含めた治療計画の提案が大切ですね。

RASKでは全国の提携動物病院で外科手術や跛行診断の出張サービスを行っています。
猫の変形性関節症をはじめとする整形外科疾患の診断にお困りの獣医師の方は、ぜひ一度ご相談ください。

気持ちのいい快晴の空の下、海辺の防波堤をジャンプして飛び移る白黒の猫の写真
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この記事を書いた人

獣医師、合同会社RASK代表、京都動物医療センター整形外科科⻑
資格:テネシー大学公式認定 CCRP
全国の犬猫の出張外科医として活動中