猫の開放骨折の治療戦略|獣医師が知っておくべき開放骨折の対応について

屋外で寝そべる猫

猫の開放骨折の治療戦略|獣医師が知っておくべき開放骨折の対応について

猫の開放骨折は獣医療の現場において迅速かつ適切な対応が求められる緊急症例の一つです。
開放骨折は単純な骨折とは異なり、皮膚や軟部組織の損傷を伴うため、感染や治癒遅延のリスクが高いです。

今回は獣医師の皆様に向けて猫の開放骨折について詳しく解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、猫の開放骨折の理解を深めましょう。

目次

猫の開放骨折とは

階段の上で座る猫

開放骨折は骨折した骨が皮膚を突き破り、外界に露出した状態の骨折を指します。
開放骨折は外部からの感染リスクが非常に高く、危険な骨折ですね。
猫の開放骨折は交通事故や高所からの落下などがおもな原因となり、子猫から高齢猫まで幅広い年齢で発生する可能性があります。
開放骨折の重症度を評価するために使われているのが、Gustilo-Anderson分類です。
Gustilo-Anderson分類は

  • 創の大きさ
  • 軟部組織の損傷程度
  • 骨の汚染具合

などを基準に分類されています。
ここではGustilo-Anderson分類について詳しく見ていきましょう。

TypeⅠ

TypeⅠは開放創が1cm未満の開放骨折です。
おもに骨折した骨片が内側から皮膚を突き破ることで発生します。
軟部組織の損傷は軽微で、適切な治療を実施できれば予後は良好です。

TypeⅡ

TyepⅡは開放創が1cmを超える開放骨折です。
TypeⅡの皮膚欠損を伴う外傷は通常、外側から内側方向への外力によって形成されます。
軟部組織損傷は中程度で、筋肉の挫傷なども見られ、骨の汚染も見られることが多いです。

TypeⅢ

TypeⅢは高エネルギー外傷による広範囲の軟部組織損傷を伴う開放骨折です。
大きな骨片の露出や骨の粉砕などを伴うことも多いです。
TypeⅢはしばしば血管や神経損傷も併発します。
また、TypeⅢはさらに以下のような3つのサブタイプに分類されます。

  • TypeⅢA:軟部組織の損傷が重度で汚染も認めるが、骨を覆うだけの軟部組織が残存している場合
  • TypeⅢB:広範囲の軟部組織の喪失があり、骨を覆うには皮膚の再建が必要な場合
  • TypeⅢC:軟部組織の損傷程度に関係なく、動脈の損傷がある場合

猫の開放骨折の初期対応

猫の開放骨折は迅速かつ適切な初期対応がその後の治療の成功と予後を大きく左右します。
ここでは猫の開放骨折における初期対応について、段階的に解説します。

トリアージと全身状態の評価

猫の開放骨折の初期対応でもっとも重要なのは骨折そのものだけでなく、患者の全身状態を正確かつ迅速に評価しましょう。
開放骨折は交通事故や落下などの高エネルギー外傷の結果として生じることが多く、骨折以外のダメージを負っていることも多いです。
初期対応でチェックすべき項目は以下の通りです。

  • 意識レベル
  • 呼吸状態(頻度・努力呼吸・チアノーゼ)
  • 心拍・末梢循環の確認(CRT・四肢冷感・粘膜色)
  • 出血の有無と量
  • 他部位の損傷(胸部・腹部など)

猫がショック状態に陥っている場合はショックの管理を最優先で行います。

速やかな抗菌薬の投与

感染の制御は骨折治療において重要な要素の一つです。
初期対応時点で開放骨折と判断した場合は、時間をおかずに抗生物質を投与しましょう。
早期に抗生物質を投与することで感染リスクを最小限に抑えることができます。

創傷管理と洗浄

開放骨折部位から感染が広がらないようにするためには創部の処置も大切です。
まずは患部周辺の被毛を広範囲に刈り、創部を流水で十分に洗浄しましょう。
目視で明らかな異物や壊死組織があれば、取り除きます。
可能な限り創部に触れる回数を減らすために、滅菌ガーゼで創部を被覆・保護することも重要です。
創傷管理は痛みを伴うため、必要に応じて鎮静下で行い、猫のストレスと痛みを最小限に抑えましょう。

猫の開放骨折の外科治療

獣医師の診察を受ける猫

開放骨折の外科手術は猫の容態が安定した時点で行うことが一般的です。
Gustilo-Anderson分類のTypeⅠまたはTypeⅡの開放骨折で創部の感染コントロールが適切に行われている症例はプレートなどのインプラントを用いた内固定が可能です。

TypeⅢの開放骨折では軟部組織損傷などでプレートやピンなどを用いた骨折の整復が難しいこともあります。
このようにインプラントによる内固定が難しい場合には創外固定がおすすめです。
創外固定は手術による軟部組織のダメージを最小限にしたり、傷口の管理が容易になるなどのメリットがあります。
一方で、猫の生活の質の低下などのデメリットもあるので注意しましょう。

まとめ

猫の開放骨折は一般的な閉鎖骨折と比べ、合併症も多く、骨折治療の中でも難易度が高いです。
治療を成功させるには診断や初期対応も含め、迅速かつ適切な判断が求められます。

RASKでは日本全国の動物病院で整形外科の出張外科サービスを提供しています。
猫の開放骨折をはじめとする整形外科の治療にお困りの獣医師の方は気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

獣医師、合同会社RASK代表、京都動物医療センター整形外科科⻑
資格:テネシー大学公式認定 CCRP
全国の犬猫の出張外科医として活動中