猫の下顎骨骨折を徹底解説|猫の下顎骨骨折の治療を成功させるポイント

あくびをする猫

猫の下顎骨骨折を徹底解説|猫の下顎骨骨折の治療を成功させるポイント

猫の下顎骨骨折は小動物臨床において比較的遭遇する頻度が高い骨折の一つです。
下顎骨骨折は猫の摂食機能に深刻な影響を与えるため、迅速かつ適切な診断と治療が不可欠です。
本記事では獣医師の皆様に向けて、猫の下顎骨骨折の治療の実践的な知識をお届けいたします。
ぜひ最後までお読みいただき、猫の下顎骨骨折の治療の参考にしてみてください。

目次

猫の下顎骨骨折の原因

草むらで座って口を開けている猫

猫の下顎骨骨折はおもに交通事故や高所からの落下などの外傷によって発生します。
猫の下顎骨骨折では臼歯部の下顎骨体部や左右の下顎骨をつなぐ下顎結合が折れることが多いです。
まれですが、高齢猫では口腔内腫瘍による病的骨折を起こすこともあります。

下顎骨骨折の症状

猫の下顎骨骨折は、その程度や部位によってさまざまな症状が現れます。
軽度の骨折では明確な症状が見られない場合もありますが、重度の骨折では深刻な機能障害を引き起こす可能性があります。
猫の下顎骨骨折の代表的な症状は以下の通りです。

  • 口を開けたままでいる
  • よだれが多い
  • 食事が取れない
  • 口腔内の出血がある

さらに、骨折部位が大きくずれている場合は顎のラインが非対称になったり、顔が歪んで見えることがあります。
特に下顎骨体部の骨折では顎のラインが不自然に曲がることが多いですね。

猫の下顎骨骨折の診断

身体検査で下顎骨骨折が疑われる場合の最終的な診断には画像診断が不可欠です。
下顎骨折の診断でもっとも一般的に用いられるのはレントゲン検査です。
レントゲン検査では側面像や腹背像など複数の方向から撮影を行い、

  • 骨折の部位
  • 骨片のずれ
  • 歯の損傷
  • 顎関節の状態

などを詳細に評価しましょう。
複雑な骨折の場合はCT検査を行うことで三次元的な画像を得ることができ、骨折線の複雑な走行や骨片の微細なずれなどをより正確に把握できます。

また、下顎骨骨折は交通事故などの外傷で起こることが多いため、全身状態の把握も重要です。
血液検査などを組み合わせて下顎骨以外にも外傷によるダメージがないかを入念にチェックしましょう。

猫の下顎骨骨折の治療ポイント

猫の下顎骨骨折の治療は生活の質に直結します。
下顎骨骨折の治療目的は

  • 口腔としての機能回復(食事や呼吸)
  • 咬合の修復
  • できる限りの解剖学的整復

などです。
猫の下顎骨骨折の治療は保存療法と外科治療に分けられます。

保存療法

保存療法は比較的軽度の骨折で、骨折片の転位が少ない場合に実施することが可能です。
保存療法では口輪や縫合糸などを用いて上下の顎を固定します。
保存療法は外科手術に比べて身体への負担が少ないですが、猫は長期間の固定を嫌がるケースが多いです。

外科治療

猫の下顎骨骨折の多くは外科手術が必要です。
外科手術では骨折片を正確に整復し、強固に固定することで、早期の機能回復を目指します。
下顎骨骨折の手術ではプレートやワイヤーなどを用いる方法が代表的な術式です。
猫の下顎は非常に細く、プレートなどを設置するスペースにも限界があるため、最小限の侵襲で最大限の固定力を得る工夫が求められます。
下顎骨骨折の手術においてもっとも大切なのは解剖学的整復を実施することです。
わずかな骨片のずれが慢性的な摂食障害や疼痛の原因になるため、咬合確認を怠らないようにしましょう。

猫の下顎骨骨折の術後管理

フードを食べている猫

猫の下顎骨骨折の手術後の管理は良好な予後を得るために非常に重要です。
適切な術後管理を行うことで、合併症のリスクを最小限に抑え、早期の機能回復を促進することができます。
以下に、術後管理のポイントを詳しく解説します。

疼痛管理

下顎骨骨折の手術後は痛みのコントロールが最重要ポイントです。
術後の痛みは食欲低下や治癒の遅延につながる可能性があります。
猫は痛みを隠しやすいため、痛みの程度を慎重に評価し、鎮痛剤を使用しましょう。

感染予防

手術部位の感染は深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
口腔内は常に常在菌にさらされている環境であり、術後の感染リスクが高い部位です。
外科的固定を行った場合は抗菌薬の適切な選択と投与継続が不可欠です。
また、口腔内の衛生にも配慮し、食後など可能な範囲で口腔洗浄を飼い主様にも指導しましょう。

食事のサポート

下顎骨骨折の手術直後は食欲が低下している場合がありますが、早期の栄養補給は治癒促進のために重要です。
最初は骨折部位に負担がかからないようにウェットフードや流動食など、柔らかい食事を与えます。
必要に応じて強制給餌や食道カテーテルの装着も栄養管理に有効です。

まとめ

猫の下顎骨骨折は適切な治療が実施できれば、多くの場合良好な予後が期待できます。
しかし、治療や術後管理がうまくいかないと食事が取れなくなるなどの生活の質の低下につながります。
猫の下顎骨骨折の治療は整形外科の専門知識と技術が求められる高度なものです。

RASKでは、全国の動物病院で整形外科の外科出張サービスを提供しています。
猫の下顎骨骨折の治療でお悩みの方は気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

獣医師、合同会社RASK代表、京都動物医療センター整形外科科⻑
資格:テネシー大学公式認定 CCRP
全国の犬猫の出張外科医として活動中