犬の股関節脱臼の手術|股関節脱臼の症状や手術について獣医師が解説!

床に伏せて元気なさそうにしているパグの写真

犬の股関節脱臼の手術|股関節脱臼の症状や手術について獣医師が解説!

犬の股関節脱臼は、股関節に強い痛みや歩行障害をもたらす整形外科疾患のひとつです。
事故などの強い衝撃によって突然発生するため、動揺される飼い主様が多いです。
「愛犬が急に後ろ足を浮かせて歩くようになった」
このような症状が見られたら、股関節脱臼の可能性があります。
今回は股関節脱臼の症状や手術について獣医師が詳しく解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬が足をつかなくなったときの参考にしてください。

目次

犬の股関節脱臼について

犬の股関節脱臼は大腿骨の先端の大腿骨頭が骨盤の寛骨臼から外れた状態です。
正常な股関節では大腿骨頭は股間節を包む関節包と靱帯によって固定されています。
この股関節に強い力が加わると、関節包が破れて脱臼してしまうことがあります。
具体的には以下のような場面で股関節脱臼が起こることが多いです。

  • 高いところから飛び降りた
  • カーテンで遊んでいて足が絡まった
  • 交通事故に遭った

日常の何気ない場面で股関節脱臼は起こるため、注意が必要です。

股関節が脱臼すると強い痛みが生じるため、犬は地面に足をつけなくなります。
犬の元気や食欲も低下するため、早期に診断と治療を行うことが大切です。
股関節脱臼を放置すると関節に慢性炎症が起き、周囲の筋肉が萎縮します。
慢性経過になると骨が変形し組織が固くなり、手術の難易度が上がることもあります。
愛犬の異常に気づいたら早めに動物病院を受診することが大切ですね。

犬の股関節脱臼の診断

犬の股関節脱臼の診断には以下の3つの検査を行います。

  • 歩様観察
  • 股関節の触診
  • レントゲン検査

ひとつずつ見ていきましょう。

歩様観察

歩様観察では足をひきずる程度や足をつけているかどうかを確認します。
脱臼した側の足は診察室の中でも地面につけることができません。

股関節の触診

股関節の触診は股関節脱臼の診断において重要です。
股関節脱臼を起こした犬は大腿骨を動かすと強い痛みを訴えます。
そして骨盤の骨と大腿骨の位置関係が変位していることを確認します。

レントゲン検査

レントゲン検査は股関節脱臼の診断でもっとも重要な検査です。
股関節脱臼だと、大腿骨頭が寛骨臼から外れてしまっていることがはっきりとわかります。
これにより股関節脱臼の確定診断がなされます。

路上でお尻をこちらに向けて振り返っているチワワの写真

犬の股関節脱臼の治療

股関節脱臼に対する治療法には、保存療法を含めいくつかの選択肢があります。
ここでは以下の4つの治療法について詳しく解説していきます。

  • 非観血的整復
  • 大腿骨頭骨頸切除術
  • トグルピン法(股関節靱帯再建術)
  • 人工股関節全置換術

非観血的整復

非観血的整復は、股関節を整復し、包帯で固定を行う方法です。
股関節の整復時に、痛みを伴います。そのため犬に麻酔をかけ、痛みを感じないようにして整復することが多いです。
包帯は最低でも1週間、できれば2週間装着します。その後は包帯は外し2週間ほど安静にして、再診時に股関節が安定しているかを確認します。

非観血的整復は手術をせずに股関節脱臼を治療できる可能性があることが大きな利点です。
ただ強い固定ではないため再脱臼の可能性があるという欠点があります。
再脱臼してしまった場合は、これから説明するいずれかの手術を実施することになります。

大腿骨頭骨頸切除術

大腿骨頭骨頸切除術は大腿骨頭を切除し、股関節の関節構造をなくす手術です。
これにより股関節の痛みが取り除かれ、犬は次第に足をつけられるようになります。
術後は新しく組織がつくられて、大腿骨頭がもとの股関節の位置で固まります。
このため元通りに歩いたり走ったりできるようになることがほとんどです。
また大腿骨頭骨頸切除術は安定した治療成績があり、多くの動物病院で実施可能なシンプルな手術です。

ただ大腿骨頭骨頸切除術には欠点もあります。
股関節の構造は元に戻せないため、後肢の筋肉が萎縮してしまう場合があります。
また中型犬以上の犬だと筋力の回復が遅い場合があり、十分なリハビリが必要です。

トグルピン法(股関節靱帯再建術)

股関節靱帯再建術はナイロン糸などの人工靱帯で、股関節の靱帯を再建する方法です。
この手術では大腿骨頭と寛骨臼に穴をあけ、人口靱帯で2つの骨を固定します。
これにより強固に股関節を整復することができます。
また大腿骨頭骨頸切除術と異なり、大腿骨頭を切らずに股関節の機能を回復させることができます。
ただ股関節靱帯再建術は特殊な技術や設備が必要であり、整形外科に長けた獣医師でなければ実施することができません。また、将来的には骨関節症が進行し、足を引きずるようになる可能性があります。

人工股関節全置換術

人工股関節全置換術は、股関節を除去し、金属やポリエチレン製の人工関節に置換することで、疼痛や関節の機能を改善する手術です。正常な股関節と比較して、90%以上の機能回復が認められます。ただ人工股関節全置換術は、特殊な技術や設備が必要であり、合併症の発生率が他の手術と比較すると高いことが欠点です。

まとめ

犬の股関節脱臼は、主に外傷によって発生し非常に強い痛みを伴います。
治療法は包帯による保存療法もありますが、外科手術によって安定して肢の機能の回復を得ることができます。
愛犬が後ろ足を浮かせるなどの異常を見つけたら、なるべく早く信頼できる獣医師に診察してもらいましょう。

RASKでは全国の動物病院に出張して、専門的な整形外科手術を提供しています。
犬の股関節脱臼にお悩みの方は、ぜひ提携動物病院を通じてご相談ください。

芝生の上を走り回っているパピヨンの写真
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この記事を書いた人

獣医師、合同会社RASK代表、京都動物医療センター整形外科科⻑
資格:テネシー大学公式認定 CCRP
全国の犬猫の出張外科医として活動中