避妊手術は、犬の健康を守る予防医療として重要な手術のひとつです。
しかし飼い主様の中には一般的な開腹下での避妊手術に抵抗のある方も少なくありません。
そのため最近は開腹手術に比べて犬への負担が少ない腹腔鏡手術に注目が集まっています。
「術後の痛みで犬がなかなか元気にならなかった」
「飼い主様が手術跡を気にされていた」
このような経験をされた先生もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、腹腔鏡下避妊手術のメリットや導入方法について詳しく解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、腹腔鏡下避妊手術の導入の参考にしてみてください。
犬の開腹下避妊手術の問題点
犬の開腹下避妊手術はこれまで一般的に多くの動物病院で行われてきましたが、いくつかの問題点があります。
まず開腹手術では卵巣を体外に引っ張って操作するときに強い痛みが生じます。
このときに麻酔薬を増量するなどの対応をとりますが、麻酔が増えることによる犬の体への負担は軽視できません。
術中の強い痛みや麻酔薬の増量は覚醒後の回復を遅らせるため、犬の元気と食欲がなかなか戻らずに飼い主様が不安を感じることもあります。
また開腹手術では皮膚を大きく切開するため、長い距離を縫合する必要があります。
傷が大きいと犬が縫合した部分を気にしてなめてしまい、炎症や縫合不全を起こすこともあります。
犬が縫合部をなめないようにエリザベスカラーを装着することもありますが、飼い主様の中には抵抗を感じる方も少なくありません。
こうした理由からより低侵襲で安全な避妊手術が求められており、犬の避妊手術に腹腔鏡手術が応用されるようになっています。
犬の腹腔鏡下避妊手術のメリット
犬の腹腔鏡下避妊手術には多くのメリットがあり、開腹での避妊手術の問題点を解決することができます。
犬の腹腔鏡下避妊手術のメリットとして以下の3つが挙げられます。
- 痛みが小さい
- 麻酔量が少ない
- 傷が小さい
それぞれについて見ていきましょう。
痛みが小さい
腹腔鏡下避妊手術は術中・術後の痛みが小さいというメリットがあります。
腹腔鏡手術ではカメラで確認しながら体内で卵巣を切除するため、卵巣を引っ張るときの強い痛みを与えないで済みます。
また傷口が小さいため術後の皮膚の痛みも少なく、犬の元気や食欲の回復もスムーズです。
麻酔量が少ない
腹腔鏡下避妊手術は麻酔量が少ないというメリットがあります。
腹腔鏡手術では卵巣を引っ張る強い痛みが起きないため、麻酔量を増量しなくて済む場合が多いです。
また傷が小さいため縫合時間が短く、その分麻酔時間を短縮することができます。
傷が小さい
腹腔鏡手術では傷が小さいというメリットがあります。
腹腔鏡手術では一般的には5mmほどの切開を3か所入れるだけで済む場合が多いです。
犬が傷口を気にしにくいため、エリザベスカラーを装着せずに済む場合もあります。
また術後の傷跡も目立ちにくいです。
犬の腹腔鏡下避妊手術の導入の課題
犬の腹腔鏡下避妊手術には多くのメリットがありますが、導入にあたってはいくつかの課題もあります。
まず腹腔鏡手術を行うには専用の機材が必要です。
腹腔鏡手術のためにはカメラやモニター、トロッカーなどを揃える必要があります。
これらの初期投資には高額な費用がかかるため、導入には慎重な判断が求められます。
さらに開腹手術と技術的にまったく異なるため、獣医師自身のトレーニングが必要です。
腹腔鏡手術の習得には時間と費用がかかるため、日常の診療と並行して腹腔鏡手術のトレーニングを行うのは簡単なことではありません。
また腹腔鏡手術はチームワークが求められるため、獣医師だけでなくスタッフの継続的なトレーニングも求められます。
このように、設備面と人材面の両方で準備が必要になります。
しかし腹腔鏡下避妊手術のメリットを考えると、導入を検討する価値は高いですね。
犬の腹腔鏡下避妊手術の導入方法
犬の腹腔鏡下避妊手術の導入方法は大きく2つに分かれます。
- 自院で獣医師を育成する
- 外科出張サービスを利用する
それぞれについて見ていきましょう。
自院で獣医師を育成する
自院で腹腔鏡手術の術者として獣医師を育成することはまず第一の選択肢です。
腹腔鏡手術の技術を学ぶ機会としては以下があげられます。
- 腹腔鏡手術のセミナーや講習会に参加する
- スーチャリングボックスなどの練習教材を使う
- 専門施設での実習や見学に参加する
これらの機会にアンテナを張って、積極的に技術習得に努めることが大切です。
しかし忙しい臨床獣医師が日々の診療をこなしながら、腹腔鏡手術を習得することは容易なことではありません。
外科出張サービスを利用する
外科出張サービスを利用することは、獣医師を育成する時間や費用を割くことができない場合にとても有効な選択肢です。
外科出張サービスでは専門の外科医が病院に出張して手術を担当します。
このため腹腔鏡手術のトレーニングのコストをかけずに、患者様に腹腔鏡手術を提供することが可能です。
また技術的に信頼のおける外科医に依頼できるため、患者様にも自信をもって腹腔鏡手術という選択肢を提示することができます。
まとめ
犬の腹腔鏡下避妊手術は、低侵襲かつ安全性の高い手術方法です。
傷が小さく痛みも少ないため、犬にも飼い主様にも優しい選択肢となります。
導入には機材や技術といった課題がありますが、外科出張サービスを活用することで実施のハードルを下げることができます。
RASKでは、全国の動物病院で腹腔鏡下避妊手術を含む外科出張サービスを提供しています。
腹腔鏡手術の導入をご検討中の先生は、ぜひ一度ご相談ください。