犬の胸腰部椎間板ヘルニアの手術|手術の適応と術式を獣医師が解説

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犬の胸腰部椎間板ヘルニアの手術|手術の適応と術式を獣医師が解説

犬の胸腰部椎間板ヘルニアは犬の腰に急な痛みや麻痺を起こす病気です。
この病気は犬の腰の椎間板がつぶれてしまい、脊髄を圧迫することによって起きます。
後肢の麻痺が重度な場合は、手術をしなければ後肢が生涯麻痺してしまうこともあります。
「うちの犬が急に後ろ足を引きずって歩いている!」
このような場合は椎間板ヘルニアの可能性が高いです。
今回は犬の胸腰部椎間板ヘルニアの手術とその適応について解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬に急な腰の痛みや麻痺が起きたときのために役立ててください。

目次

犬の胸腰部椎間板ヘルニアについて

犬の胸腰部椎間板ヘルニアは、背骨の間にある椎間板がつぶれて脊髄を圧迫する病気です。
椎間板がつぶれるきっかけとして多いのは、高いところにジャンプするなどの激しい運動です。
症状は軽度であれば犬の体を触ると「キャン!」と鳴いて痛がる程度ですが、重度の場合は後肢が麻痺したり、自分の意志で排尿できなくなったりします。
また、この病気は特にミニチュア・ダックスフンドでの発生が圧倒的に多いので、ダックスを飼っている方は気を付けましょう。

犬の胸腰部椎間板ヘルニアの診断

犬の胸腰部椎間板ヘルニアは後肢の麻痺や痛みの程度に加え、MRIによってヘルニアの程度や位置を確認することで診断されます。
椎間板ヘルニアは脊髄の病気であるため、MRIによってのみヘルニアの位置や脊髄の圧迫の程度を確認できます。
これは脊髄や脳をはじめ神経を写し出せるのはMRIだけだからです。
ただMRIを設置している動物病院は少ないため、MRIを撮ることができない場合や症状が軽度な場合はレントゲン検査を行うことが多いです。
レントゲン検査ではヘルニアの位置を特定できない場合が多く、あくまで補助的な検査になります。

犬の胸腰部椎間板ヘルニアのグレード分類と症状

犬の胸腰部椎間板ヘルニアは症状によって5つのグレードに分類され、グレードによって治療方針も異なります。
時間の経過とともに症状が進行し、グレードがより高くなることもあるため早めに動物病院で診てもらうことが大切です。

グレード1

グレード1は知覚過敏だけがある状態です。
犬の体を触ると「キャン!」と鳴いて痛がったり、背中を痛そうに丸めるのが特徴です。

グレード2

グレード2は知覚過敏に加えて、後肢の運動失調も伴います。
後肢の運動失調を起こすと、後ろ足がフラフラして歩き方が不安定になります。

グレード3

グレード3は後肢の不全麻痺が起きている状態です。
不全麻痺とは一部の運動機能や感覚が残った状態で、起立することはできますが後肢を引きずって歩きます。

グレード4

グレード4は後肢の運動機能が完全に麻痺していますが、痛覚は残っている状態です。
グレード4の犬は後肢で立ち上がることもできませんが、皮膚を強くつまむと足をひっこめます。

グレード5

グレード5は後肢の運動機能も痛覚も完全に麻痺している状態です。
場合によっては排尿する神経も麻痺していることがあります。
長時間排尿できないと急性腎不全になるため非常に危険であり、すぐに治療が必要です。

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犬の胸腰部椎間板ヘルニアの治療

犬の胸腰部椎間板ヘルニアの治療は、大きく分けると保存療法と外科手術の2つです。
ヘルニアのグレードによって治療法が分かれるため、獣医師による正確な診断が重要です。
以下にそれぞれの治療について解説していきます。

保存療法

保存療法はグレード3までの胸腰部椎間板ヘルニアに対する治療です。
グレード3までは後肢の麻痺が軽度のため、保存療法のみでも回復する可能性があります。
保存療法では、主にケージレストを行います。痛みがひどい場合はNSAIDs(鎮痛剤)を服用する場合もあります。
ケージレストとは犬をジャンプのできない狭い空間に入れて、背骨の運動を最小限にすることです。
ケージレストを4-6週間程度継続することで、症状の改善が認められることがあります。

外科手術

外科手術はグレード3以上の胸腰部椎間板ヘルニアの治療の第一選択です。
外科手術によってつぶれた椎間板を直接摘出して脊髄の圧迫をなくせば、後肢の麻痺が改善して歩けるようになる可能性は高まります。
特に後肢の痛覚が残っている場合は手術による回復率は90%以上です。
しかし後肢の痛覚が消失している場合は手術をしても回復率は50%であるため、症状が重くなる前に早めに手術を行うことが大切です。

胸腰部椎間板ヘルニアの外科手術

胸腰部椎間板ヘルニアの外科手術は片側椎弓切除術という術式で行われることが多いです。
椎弓というのは背骨を構成している椎骨の一部分の名称です。
つぶれた椎間板は基本的に左右のどちらかに出るため、片側椎弓切除術は左右どちらかの椎弓に穴をあけて椎間板を摘出する手術という意味になります。

片側椎弓切除術の手順は以下の通りです。
まずヘルニアの発生している椎骨の上の皮膚を切皮し、椎骨が見えるようにします。
椎骨の側面を専用の道具で削っていくと、脊髄と飛び出た椎間板が見えるようになります。
飛び出た椎間板を摘出したら、術部を縫い閉じて終了です。

術後の回復は術前の後肢の麻痺の状態によって大きく異なります。
一般的には術前に後肢を自分で動かせていた場合は回復が早く、後肢が完全に麻痺していた場合は回復に2週間はかかる場合があります。

まとめ

胸腰部椎間板ヘルニアは前触れなく急に犬の腰に痛みを起こし、場合によっては後ろ足が麻痺する病気です。
後ろ足に麻痺がある場合は、症状が進行する前に外科手術を行うことが歩けるようになるために重要です。
愛犬が急に体を痛がったり、後ろ足をひきずったりしていることに気づいたら、なるべく早く動物病院を受診しましょう。

RASKでは外科の出張サービスを行っています。
経験豊富な外科医が全国の動物病院まで出張し、高度な外科手術を提供しています。
犬の胸腰部椎間板ヘルニアの手術にも対応しておりますので、気になる方は提携している動物病院までお問い合わせください。

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この記事を書いた人

獣医師、合同会社RASK代表、京都動物医療センター整形外科科⻑
資格:テネシー大学公式認定 CCRP
全国の犬猫の出張外科医として活動中