犬の前十字靱帯断裂の手術|犬の前十字靱帯断裂の手術の適応や術式について獣医師が解説!

芝生の上を楽しそうにジャンプしている白いトイプードルの写真

犬の前十字靱帯断裂の手術|犬の前十字靱帯断裂の手術の適応や術式について獣医師が解説!

犬の膝関節の動きは前十字靱帯という靱帯によって支えられています。
前十字靱帯が断裂すると、膝関節の安定性が失われて強い痛みや歩行障害が起こります。
犬の前十字靱帯断裂の治療方法はいくつかありますが、原則として手術が必要です。
「うちの子は本当に手術が必要なのか」
このように悩まれている方も多いのではないでしょうか。
今回は犬の前十字靱帯断裂の手術とその適応について獣医師が分かりやすく解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、愛犬が前十字靱帯断裂になった際の参考にしてください。

目次

犬の前十字靱帯断裂とは?

犬の前十字靱帯断裂は膝関節の安定を保つ前十字靱帯が切れてしまう病気です。
前十字靱帯は大腿骨が前方に滑らないように固定している靱帯です。
この靱帯が断裂すると、膝関節の強い炎症・痛みと歩行障害が起きます。
前十字靭帯の断裂は突然起きることが多く、犬は足を地面につけられなくなります。
犬の前十字靱帯断裂の原因は以下の4つが多いです。

  • 加齢による靱帯の脆弱化
  • 激しい運動や外傷
  • 肥満
  • 膝蓋骨脱臼

それぞれについて解説します。

加齢による靱帯の脆弱化

加齢による人体の脆弱化は、犬の前十字靭帯断裂の原因のひとつです。
犬は年齢を重ねると、前十字靱帯の柔軟性や強度が低下していきます。
このため日常生活の中で少しずつ靱帯に負荷が蓄積すると、前十字靱帯断裂が起きます。

激しい運動や外傷

激しい運動や外傷は犬の前十字靭帯断裂の原因のひとつです。
ジャンプなどの動きは膝に大きな力がかかり、前十字靱帯が切れることがあります。
また、転倒や交通事故などの外傷も前十字靱帯断裂の原因となることがあります。

肥満

肥満は犬の前十字靱帯断裂の原因のひとつです。
体重が増えると犬の膝関節にかかる負担が非常に大きくなります。
そのため犬がジャンプやダッシュなどの運動をする際に靱帯が断裂するリスクが高まります。

膝蓋骨脱臼

膝蓋骨脱臼があると、前十字靭帯断裂のリスクが高まります。
チワワやトイプードルなどの小型犬は膝のお皿の骨である膝蓋骨の脱臼が起きやすいです。
膝蓋骨脱臼があると膝関節が不安定になるため、前十字靭帯断裂も起きやすくなります。
膝蓋骨脱臼についてはこちらにまとめているので参考にしてみてください。
犬の膝蓋骨脱臼の手術|症例に合わせた様々な術式を獣医師が解説 – ラスク 動物の整形外科・外科診療支援サービス

犬の前十字靱帯断裂の手術の適応

犬の前十字靱帯断裂の手術の適応は、前十字靱帯が完全に切れてしまった場合です。
一度切れてしまった前十字靭帯は自然に治ることはなく、膝関節を安定させる方法は手術しかありません。
また前十字靱帯が部分断裂している場合も強い痛みや歩行障害があれば、手術をすることが望ましいです。

前十字靭帯断裂を手術せずに放置すると、膝関節の炎症が進行して関節の変形や運動障害が悪化してしまいます。
また前十字靭帯断裂の痛みは非常に強いため、痛み止めやサプリメントによる内科療法は奏功しないことが多いです。
このため、前十字靭帯断裂が起きた場合はなるべく早く手術によって膝関節を安定化させることが大切です。

憂鬱な表情で遠くを見つめる茶色いラブラドールレトリーバーの写真

犬の前十字靱帯断裂の手術の術式

犬の前十字靱帯断裂の手術の術式は以下の3つが代表的です。

  • 脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)
  • 関節外法(ラテラルスーチャー法)
  • 脛骨粗面前進化術

どの術式も高度な技術が必要なため、整形外科に精通した獣医に依頼することが大切です。
それぞれについて解説していきます。

脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)

脛骨高平部水平化骨切り術は、犬の前十字靭帯断裂の第一選択とされる手術です。
この手術では脛骨の上部を円形に切り、角度を変えて金属プレートで固定します。
これにより膝にかかる力の方向が変わるため、靱帯がなくても膝関節の安定が得られます。
TPLOでは膝関節の強力な安定を得られるため、大型犬も手術の適応です。
ただし骨を切るため専門的な技術と設備が必要で、実施できる動物病院は限られます。
またTPLOに必要な道具が高額であるため、手術費用も比較的高額になります。

関節外法(ラテラルスーチャー法)

関節外法は断裂した前十字靭帯の代わりに人工の糸を用いて膝関節を安定させる方法です。
関節外法は骨を切らないシンプルな手術であるため、手術による犬への負担が少ないです。
また手術によるダメージが少ないため、術後の犬の回復が早いと言われています。
関節外法は特殊な設備や道具が必要ないため、費用負担が比較的少ないことも利点です。
ただし大型犬や非常に活発な犬の場合は、人工靱帯がゆるみやすく安定を得にくいです。
このため関節外法は小型犬に適応されることが多いですね。

脛骨粗面前進化術

脛骨粗面前進化術は、犬の前十字靭帯断裂の手術のひとつです。
この手術では脛骨の一部を骨切りして前方に移動させて金属インプラントで固定します。
これにより膝関節の力のかかり方が変わり、前十字靭帯がなくても膝関節が安定します。
脛骨粗面前進化術の利点は、膝蓋骨脱臼を併発していても同時に治療できるところです。
ただしTPLOと同じく骨を切る大きな手術であり、専門的な設備と技術が必要です。

まとめ

犬の前十字靱帯断裂は自然に治癒せず、放置すると関節炎や歩行障害が進んでしまいます。
そのため多くの場合、犬の前十字靭帯断裂の治療には手術が必要です。
犬の年齢や体格、関節の状態によって最適な術式は異なります。
前十字靭帯断裂の手術では高度な技術が要求されることも多く、整形外科に精通した獣医師に依頼することが望ましいです。

RASKでは全国の提携動物病院で整形外科手術の出張サービスを行っています。
愛犬の前十字靭帯断裂の治療に悩んでいる方は、ぜひお近くの提携動物病院までご相談ください。

地面に座って笑顔でこちらを見上げる犬の写真
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この記事を書いた人

獣医師、合同会社RASK代表、京都動物医療センター整形外科科⻑
資格:テネシー大学公式認定 CCRP
全国の犬猫の出張外科医として活動中