猫の骨盤骨折の手術とは|骨盤骨折の治療方針を詳しく解説

車の前に座っている猫

猫の骨盤骨折の手術とは|骨盤骨折の治療方針を詳しく解説

猫に多くみられる骨盤骨折は迅速かつ的確な処置が求められる整形外科疾患です。
獣医師として、猫の骨盤骨折にどう対処するかについての十分な知識を持つことは非常に重要です。
適切な治療方針の決定と手術手技の選択は骨盤骨折の予後を大きく左右します。

今回は猫の骨盤骨折の治療について詳しく解説します。
獣医師の皆様は、ぜひ最後までお読みいただき、骨盤骨折の治療の参考にしてみてださい。

目次

猫の骨盤骨折とは

猫の骨盤骨折は交通事故や高所からの落下などの外的要因によって引き起こされることが多く、猫の骨折の20〜30%を占めるという報告もあります。
骨盤は

  • 腸骨
  • 坐骨
  • 恥骨

から構成されており、これらの骨が癒合したものが寛骨と呼ばれる骨です。
寛骨は仙骨と仙腸関節で結合し、骨盤を形成します。
骨盤は後肢の動きや内臓の保護に重要です。

猫の骨盤骨折はその発生部位によってさまざまな種類に分類されます。
おもな骨折の種類は以下の通りです。

  • 腸骨骨折
  • 恥骨骨折
  • 坐骨骨折
  • 寛骨臼骨折
  • 仙腸関節脱臼

これらの骨折は単独で発生する場合もあれば、複数組み合わさって発生する場合もあります。

骨盤骨折の手術適応

屋外で木のベンチの上に座る猫

猫の骨盤骨折に対処する際には手術の適応を知っておく必要があります。
以下のような骨折は手術が適応になります。

骨盤腔の狭窄を伴う骨折

骨盤腔には膀胱や直腸などの重要な臓器があります。
骨盤骨折によって骨盤腔が狭くなると便秘などの排便障害を起こすことがあります。
排便障害が続くと、将来的に巨大結腸症を発症するので要注意です。
そのため、骨盤腔が骨折により狭くなってしまった場合は手術適応となります。

体重の負荷がかかる部位の骨折

骨盤は猫の体重を支える重要な部分です。
特に体重を支えるために大切な

  • 寛骨臼
  • 腸骨
  • 仙腸関節

の骨折や脱臼は手術が適応です。
上記の骨や関節は骨盤の安定性の維持に重要で、歩行機能にも大きく影響するため、正確な整復が必要になります。

神経の損傷がある骨折

骨盤の近くには坐骨神経など重要な神経が通っているため、神経損傷がある場合は神経の圧迫を解除する手術が必要です。
神経損傷は後肢の麻痺や排尿障害などを引き起こす可能性があります。
骨盤骨折の際は骨の状態だけでなく、神経系の評価も大切です。

手術が必要ない骨盤骨折もあるの?

猫の骨盤骨折は必ずしも手術が必要なわけではありません。
以下のようなケースでは2ヶ月程度の安静管理で治癒することもあります。

  • 恥骨や坐骨のみの骨折
  • 骨の変位がほとんどない骨折
  • 骨盤狭窄が少ない骨折

これらの骨折でも改善が乏しい場合や痛みが続く場合は手術が必要になることもあります。

猫の骨盤骨折の手術がうまくいかなかった場合のリスク

骨盤骨折の手術が上手くいかなかった場合や適切に実施されなかった場合はいくつかの合併症が生じる可能性があります。
ここでは骨盤骨折の手術の合併症について詳しく説明します。

排便障害

骨盤骨折の治療でもっともよくみられる合併症が排便障害です。
骨盤腔の狭窄が改善されないまま骨が癒合してしまうと、便の通過障害が生じます。
排便障害は巨大結腸症を引き起こし、結腸亜全摘出術などの手術が必要になることもあります。

慢性疼痛

不適切な骨折治療は慢性的な痛みの原因となります。
慢性疼痛の原因には骨折部位での痛みや神経の圧迫による神経性疼痛などが挙げられます。
慢性疼痛は猫の生活の質が低下するので注意が必要です。

関節機能障害

大腿骨と関節を形成する寛骨臼骨折の整復がうまくいかなかった場合は股関節の機能不全を招きます。
股関節の機能不全が生じると関節の可動域制限が出たり、二次的な変形性関節症に発展します。
そのため、寛骨臼骨折では関節面の正確な解剖学的整復が必要です。

骨盤骨折の治療を成功させるには

猫の診察をしている女性獣医師

猫の骨盤骨折の治療を成功させるためには、骨折の状態を正確に把握し、適切な治療法を選択することが重要です。
ここでは骨盤骨折の治療を成功させるポイントをお伝えします。

術前に詳細な評価をする

骨盤骨折の治療方針を決定する上で、事前の詳細な評価は不可欠です。
レントゲン検査でどの部位に骨折が生じているかや、骨折の種類を確認しましょう。
また、骨盤骨折による神経障害の有無を確かめるためには後肢の麻痺がないかや排尿、排便の様子もしっかりみておく必要があります。

適切なタイミングで手術する

手術のタイミングは骨盤骨折の治療成功の鍵を握る要素です。
骨折部位が時間経過とともに周囲の組織と癒着し、手術による合併症リスクが高くなります。
骨盤骨折が発生した場合は、可能であれば受傷後10日以内に手術するのが望ましいとされています。

外部委託を検討する

骨盤骨折の治療は高度な技術や知識が必要になるためすべての動物病院で対応できるわけではありません。
もし、自身の動物病院で対応が難しい場合は外部の獣医師による出張外科サービスを利用することを検討しましょう。
外部委託をすることで経験豊富な獣医師による安全で確実な手術を実施することができます。

まとめ

猫の骨盤骨折はその種類によって治療アプローチが異なります。
特に歩行障害が強い場合や骨盤腔の狭窄がある場合は迅速な対応が必要です。
しかし、骨盤骨折の治療は複雑で合併症のリスクも高い手術です。

RASKでは日本全国で整形外科の出張手術を行っています。
骨盤骨折の治療に不安がある獣医師の方は気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

獣医師、合同会社RASK代表、京都動物医療センター整形外科科⻑
資格:テネシー大学公式認定 CCRP
全国の犬猫の出張外科医として活動中